診療科・部門
輸血・細胞治療センター
概要
輸血・細胞治療センターは、血液製剤を必要とする臨床現場に迅速に供給でき、かつ輸血療法が適切に実施される体制を整備する部門です。そのため、輸血製剤やアルブミン製剤の入出庫管理や適切な保管、輸血関連検査(血液型や不規則抗体スクリーニング、交差適合試験など)の実施、輸血副反応の管理、自己血輸血の採取と管理、院内血液製剤の調整などとともに、輸血療法委員会の開催、職員に対する輸血製剤適正使用への指導や情報提供を行っています。また、造血幹細胞移植診療への支援として、造血幹細胞の保存や管理、臍帯血の管理などを行っています。
輸血療法は緊急対応が必要なことも多く、24時間体制をとっています。一年間に取り扱う輸血製剤は、赤血球製剤約12000単位、血小板製剤約20000単位、新鮮凍結血漿約5000単位と数多く、また院内でクリオプレシピテート製剤の調整を行い、大量出血例などに備えています。
業務紹介
体制
センター長 | 倉橋信悟(血液・腫瘍内科部長兼任) |
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輸血・細胞治療センター技師 | 専任技師5名 |
輸血部門
輸血部門は、適切な血液製剤を必要とする臨床現場へ迅速に支給するとともに、輸血療法が適正に実施される体制を作成・推進する部門です。また、安全な輸血療法を実施するために輸血関連検査を行っています。
輸血用血液製剤は、赤血球液、血小板濃厚液、新鮮凍結血漿を管理しています。赤血球液は、出血・貧血の時、組織や臓器へ十分な酸素を供給するために使用します。血小板濃厚液は、血小板の減少または機能異常時に使用します。新鮮凍結血漿は、凝固因子の補充のため使用します。アルブミン製剤は、血漿交換療法などに使用します。各製剤を、適切に保管・管理しています。また、輸血副反応管理、輸血に伴う感染症管理を行っています。
血液型検査、不規則抗体スクリーニング検査、交差適合試験、直接抗グロブリン試験などを行います。安全な輸血のため、血液型検査、交差適合試験を行います。血液型は血球表面物質(抗原)と血漿中の抗体を検査試薬を用いて調べ、安全のため院内で2回確認します。交差適合試験は、患者さんの血液と輸血する血液が反応しないことを確認する検査です。一般的には血液型の異なる製剤を輸血することを防ぐ最終確認として行います。
血液製剤はヒト由来の生物製剤であり、免疫学的副反応と感染症の伝播を完全に防ぐことは困難です。免疫学的副反応は輸血の1%前後で発生します。輸血副反応の有無は輸血センターに報告し、また院内の輸血療法委員会にて問題点を検討します。輸血後の感染症のリスクに備えて、輸血前の血液を保管し、必要に応じて感染症の検査を行います。輸血による感染が証明できる場合には公的な感染症給付制度の適用を申請することが出来ます。
赤血球製剤の副反応を回避し得る最も安全な輸血療法であり、待機的手術患者に積極的に推進しています。自己血採血前に、貧血の有無・血圧・脈拍・体温・体調を確認します。問題がなければ実施します。ラベルに患者の自筆、または家族の署名を記入後採血バックに貼付します。採血部位を皮膚消毒後採血します。採血されたバックは、自己血専用の製剤保冷庫で赤血球製剤と区別して保管しています。安全管理体制を整え、行っています。
4種類の院内血液製剤調整を作成しています。1.クリオプレシピテート:新鮮凍結血漿3パックを使用し作成します。フィブリノゲンの値150㎎/dLを目安に使用します。2.血小板洗浄:血小板製剤の輸血による副反応を防止するためです。3.合成血作成:新生児の交換輸血の時使用します。4.分割製剤:新生児の輸血時に赤血球液2単位製剤を3~4バックに分割します。
細胞治療部門
造血幹細胞移植に関わる、細胞の保存や管理を行っています。クリーンベンチ、液体窒素保存容器、-80度超低温度フリーザー2台を有しています。
自己および同種末梢血幹細胞を、定められた作業手順に従い、適切に凍結保存しています。
ドナーさんより頂いたリンパ球を、定められた作業手順に従い、適切に凍結保存しています。
臍帯血バンクより届けられた臍帯血を、移植に用いるまで、専用の液体窒素保存容器で管理します。
その他
輸血に関する検査
血液型は赤血球の表面にある物質で決まります。皆さんがご存じのABO式血液型は赤血球表面にA抗原のみ(A型)、B抗原のみ(B型)、両方ある(AB型)か、いずれもない(O型)ことになります。Rh式はD抗原がある(+)か、ない(-)ことになります。
血液型については、この赤血球膜上の抗原だけでなく、赤血球が浮かんでいる周囲の体液(血漿)中にある抗体も関係します。A型、B型には生後半年ほどで各々抗B抗体、抗A抗体が出現します。O型には抗A抗体と抗B抗体の両方が出現しますが、AB型には何れも出現しません。これらは自然抗体と呼ばれ自然と規則的に出現します。なお、D抗原に対する抗体はD抗原を持たない人がD抗原を持つ赤血球に接しない限り出現しません。
血液判定をする際には、赤血球膜上の抗原の型と、血漿中の抗体の種類の両方を調べて規則どおりであることを確認します。まえに説明しましたように生まれてすぐは血漿中に自分の血液型に相当する抗体がまだできていないので正確な血液型を判定することはできません。ごくまれに現在使用している試薬ではこの赤血球膜上の抗原と血漿中の抗体の関係を確認できない家系の人がみえます。
ABO式血液型判定 | |
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オモテ試験 | 赤血球膜上の型抗原の判定 |
ウラ試験 | 血漿(血清)中の抗体の判定 |
例えば、 オモテ試験: A抗原 ウラ試験: 抗B抗体 ⇒A型 |
交差試験は患者さんの血液と輸血する血液が反応しないことを確認する検査です。
一般的には血液型の異なる製剤を輸血することを防ぐために最終確認として行います。ある患者さんの血液型判定を行ったつもりが、検査する血液自体を取り違えている場合には、ここで防ぐことができます。現在のシステムではこれは非常にまれなことになっており、通常は患者さんの血漿中に不規則抗体がないことを確認することが主な目的となっています。
下の図Aの場合には交差試験は必要ありませんが、図Bの場合には交差試験を行って血液製剤の赤血球膜上の特殊な抗原に対する不規則抗体がないことを確認する必要があります。
輸血療法の説明
輸血療法は様々な理由で不足した血液成分を補う治療法です。輸血される血液製剤は一定の基準を満たした健康な人からの献血を材料に製造されています。そのために、供給は充分とは言えません。またヒト由来の生物製剤であるために最善の技術を持ってしても病原微生物の混入を完全に無くすことは出来ません。さらにアレルギー性の副作用を防ぐことも出来ません。このような理由から、輸血療法の適応は血液成分の不足をそのままにしておけば病状の悪化を来たす場合があり、かつ補充する量はそれを回避するために必要最低限の量に止めなければなりません。輸血療法を受ける際には、こうした望ましくない作用が起き得ることを考慮しても輸血療法が必要な状態であることを理解していただくことが必須です。
ヒトは、体重1kgあたり約70~80mlの血液を持っています。血液は、血漿と呼ばれる淡黄色の液体に、赤血球、白血球、血小板の3種類の細胞が浮かんでおり、赤血球に含まれる血色素のため赤く見えます。血漿中には、凝固因子、アルブミン、免疫グロブリンなどが含まれています。
血液に抗凝固剤を加えて遠心分離すると、細胞成分が下層に、液体成分が上層に分離されます。赤血球は比重が大きいためにもっとも下層に分離され、その上に白血球と血小板の薄い層ができます。
輸血にあたっては血液全部を輸血するのではなく、赤血球・血小板・血漿などのうち不足している成分を必要最低限輸血「成分輸血」します。予定手術のように時間的に余裕のある場合には、他人の血液を使用しないで自分の血液を貯血して、必要になった場合にはそれを輸血する「自己血輸血」もあります。
患者さんは、外傷・消化管出血などの出血、造血器の異常、手術・抗がん剤の副作用などの治療に伴って血液あるいはその一部が不足することが有ります。そのままでは輸血をしないと酸素不足による重要臓器(脳・肝臓・心臓・腎臓など)の障害を起こしたり、出血が止まらずに生命が危険な状態になることが有ります。このような場合には不足している血液成分を輸血することで危険を回避する必要があります。
当院は宗教上の輸血拒否に対して以下のような基本姿勢で対応いたします。この方針は輸血療法委員会での議論のうえで院内倫理委員会、院長の承認を受けたものです。(2011年9月20日)
豊橋市民病院における宗教上の輸血拒否に対する基本方針
1.患者さまの宗教的信念は「個人の権利」として尊重します。
2.患者さまの意志が客観的に証明される場合は、その意志を尊重し、宗教的輸血拒否に関する合同委員会の「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」(2008年2月28日)に基づいたチャートに従い、診療を行います。
3.輸血拒否という患者さまの意志決定の権利を認めた場合でも、医療機関に課せられた救命の使命と裁量権を完全に放棄することはできません。患者さまの意志を最大限尊重しますが、患者さまの救命が必須で輸血が唯一の手段である場合や無輸血の結果が第三者に社会的影響を及ぼす場合は、医療機関の責務として成分輸血を行う場合があります。
4.当院は患者さまの意志を尊重し最善をもって可能な限り無輸血で医療を提供する決意ではあります。しかし、患者さまが極めて低い可能性であっても輸血を認め難い場合は、絶対的無輸血を認める他の医療施設での診療をお勧めします。
血液製剤はヒト由来の生物製剤であるために免疫学的副作用と感染症の伝播を完全に防ぐことは出来ません。
免疫学的副作用のリスク
非溶血性副作用の頻度は輸血回数あたり2%前後発生し、製剤別では 赤血球濃厚液 0.8%、血小板濃厚液5.1%、新鮮凍結血漿1.3%の割合で発生しています。症状としては蕁麻疹・発熱が多く見られます。赤血球濃厚液では発熱、血小板濃厚液・新鮮凍結血漿では蕁麻疹の発生が多い傾向があります。溶血性副作用の発生頻度は、非溶血性副作用の頻度の約50分の1程度発生しています。頻度は稀ですが、致死的副作用が有り得ます。一つは発症すれば致命的な輸血後GVHDという副作用ですが、これについては血液製剤へ放射線照射を行うことでほぼ完全に予防することが出来ます。もう一つは輸血患者に約0.16%で起き得る輸血関連急性肺障害「TRALI」です。これは、輸血後多くは2時間以内に発症する呼吸困難と低酸素血症を主徴とする急性肺浮腫で、適切に対応しても10%程度の死亡率があります。
感染症のリスク
- ウインドウ期間
献血者がウィルスに感染しても体内である程度増殖しないと最新の医学検査法をもってしても検出できない期間が有り、この期間をウィンドウ期間と呼びます。現在のウィンドウ期間はHIVで11日、HBVで34日、HCVで23日です。したがってウィンドウ期間中に献血が行なわれると、その血液に感染の危険があっても排除する事が不可能になります。
- 感染の頻度
2005年公表された日本赤十字社輸血情報の中で、2002年2月~2004年1月の4年間の集計によると、日本赤十字社から供給される輸血用血液製剤のHBV、HCV、HIVの伝播の確率は次の様に推定されます。これは輸血による感染が科学的に証明された件数であり、実際にはこれより多いと推定されます。
輸血に伴う感染症の感染リスク | |
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HBV(B型肝炎) | 13-17名/1年 |
HCV(C型肝炎) | 感染症例が少なく、リスク推定困難 (2000年~2005年の間に1例) |
HIV(エイズ) | 感染症例が少なく、リスク推定困難 |
(日本赤十字社輸血情報0506-89より) その他、採血時の細菌混入、未知の病原微生物などの混入の可能性もあります。 |
安全のため血液型を院内で2回確認します。この血液型の血液製剤を準備(日赤への発注、交差適合試験の実施など)し、医師の判断で必要時に応じて輸血センターより出庫され、適切な製剤であるか複数回の確認を行います。最後に、輸血直前に患者さんの確認、輸血製剤の確認をコンピュータで行います。輸血開始直後の観察には特に注意し、輸血開始から輸血後までの間の副作用発生の有無を輸血センターへ報告します。また、2ヵ月毎に開催される輸血療法委員会にてこれらシステムに問題がないかを検討します。
すでに説明させていただいたように、非常にまれではありますが輸血に伴う病原性ウィルスの感染を完全に防ぐことは出来ません。このような場合に備えて、HBV、HCV、HIVについては輸血前に感染症検査を行ない、患者さんに感染がないことを確認し、さらに輸血後およそ3ヵ月後をめどに再度検査を行うことにより、輸血による感染が起きていないか確認することを原則にしています。また、検査後の余剰検体を出来るだけ確保して2年間を目標に凍結保存するシステムを開始しています。このようにして保存された検体は遡及以外の目的で公的に利用される事は有りません。また輸血履歴は20年間保存され、同様の目的で利用されることがあります。輸血による感染が証明できる場合には公的な感染症給付制度の適用を申請することが出来ます。
輸血には以上のように様々な問題がありますが、それらを上回る効果が期待でき、患者さんの状態を安定化するために輸血の適応があることを理解したうえで輸血に同意できる場合には署名をお願いいたします。なお、不明な点については担当医師に遠慮なくご質問ください。
スタッフ
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- 出身大学
- 福井医科大学
- 指導医
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- 日本内科学会指導医
- 日本血液学会血液指導医
- 臨床研修指導医
- 専門医
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- 日本内科学会総合内科専門医
- 日本血液学会血液専門医
- 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医
- 認定医
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- 日本内科学会認定内科医
- 日本造血・免疫細胞療法学会認定医
- 日本血栓止血学会認定医
- 日本輸血・細胞治療学会認定医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- その他
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- 細胞治療認定管理師
- 日本自己血輸血・周術期輸血学会認定自己血輸血責任医師
- 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院緩和ケア研修会修了
- 診療情報管理士
- 緩和ケアの基本教育に関する指導者研修会修了