診療科・部門

総合生殖医療センター

概要

センター長(生殖医療専門医)を中心に医師、看護師、臨床検査技師/胚培養士、クラークなど多職種が専門知識・技術を結集して先端医療とカウンセリングケアを提供します。生殖補助医療(ART)においては、難治性不妊症(不育症を含む)にも対応可能な発展的機器等を多数取り揃えています。タイムラプス胚培養は、まだ世界的に草創期だった2008年から全症例・全受精卵に実施しており、スタッフが習熟を重ねています。2018年からは自動アルゴリズム胚評価Eeva®を導入し、医師によるベスト移植胚選択と患者情報提供が新しい段階に進みました。このようなスタッフと機器の充実により、たとえ不成功でも次回のための検査治療上の修正点、夫婦/カップルで何を重点的に取り組んだら良いか、粘り強く短期間で成功に導いていくための道筋を明確にします。当院では、設定スケジュールで希望する子どもの数を実現するファミリープラニングARTにおいて次子のための貯胚も推進し、男女両方の妊活・育児への職場環境改善と両輪となって、豊橋市・東三河が理想の妊活・育児モデル地区となる事をめざしています。

医療技術紹介

生殖補助医療(ART)全体の流れ

生殖補助医療(ART)全体の流れ

お使いの端末によっては、生殖補助医療(ART)全体の流れの画像が小さく表示される場合がございます。
そのような場合は別のタブで開くなど、画像を大きくしてご覧ください。

採卵

当院では国内外で一般的に行われるいかなる方法にも対応すべく、個別化卵巣刺激法(自然周期法を含む)で行ってきました。個別化卵巣刺激法とは、患者さんそれぞれの個性(年齢、卵巣予備能、不妊因子、過去の不妊歴・治療歴など)によって、採卵で卵子を得るための準備方法を具体的に立案し実践する方法です。大まかな分類をすると以下のようになります。

(1) 調節卵巣刺激法

経腟超音波で確認できる卵胞(良好卵子が入っているかは不明)を10~20個均一な大きさで育てることを目標(症例別には逸脱した目標とすることもある)として排卵誘発剤(注射薬)と早発排卵抑制剤をバランスよく併用します。GnRHアゴニスト法(Longプロトコール、Shortプロトコールなど)やGnRHアンタゴニスト法が含まれます。

(2) 低卵巣刺激法

あえて数個の卵胞を育てる治療目的で少量の排卵誘発剤(注射薬・内服薬)を用いる場合と、卵巣予備能低下が存在して短期間で多めに排卵誘発剤を使うことにより何とか数個の卵胞を得ることを目標とする場合(主として高年齢)があります。卵胞サイズが不均一となることもしばしばであり、大きめの卵胞の早発排卵を防ぐためにGnRHアンタゴニストを用いることもしばしばあります。当院では、採卵周期の子宮内膜変化を的確に評価し新鮮胚移植を積極的に行っていることもあり、内服薬としては子宮内膜への短期的中期的影響がエビデンス上も明らかなクロミフェンは限定的にしか使用せず、代替薬となるアロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール)をしばしば使用しています。

(3) 自然周期法

当院では採卵に合わせて卵子を成熟させるためにダブル・トリガー法(採卵36~34時間前に点鼻薬GnRHと自己注射薬HCGを両方用いる方法)を原則としているので、完全な自然周期ではありません。さらに若干の排卵誘発剤を採卵2~3日前に投与する準自然周期法にも習熟しています。

(4) その他

黄体ホルモン作用を有する内服薬を用いながら採卵するPPOS法などの比較的新しい方法も含めて、個別化卵巣刺激法の中で対応しています。

当院には、高次病院である院内の外科系主要手術のほぼ全てを行う手術センターの中に採卵・胚移植のための専用個室があり、麻酔下採卵、鎮痛坐薬のみの無麻酔採卵両方が可能です。手術センター所属看護師が採卵手術時の看護にあたります。経腟超音波は採卵・胚移植専用に卵巣や卵巣周囲の視認性を重視してVoluson P8®が配備されており、採卵の妨げとなる血管走行もカラードップラーで確認可能です。麻酔下採卵の場合は、病棟に生殖医療専用病床も用意されています。採卵・胚移植の術者は、センター独自の修練を経て認証されたライセンス医により実施され、外来診療中のセンター長は穿刺が極めて困難な卵胞があれば呼び出しで対応する体制になっています。このように医療安全を重視して積み重ねてきた歴史を基盤としています。

体外受精では、本来卵管内で起こっているような受精現象を体外で実現させます。具体的には、採卵で得られた卵子を含む卵丘組織に運動精子の集団を近づけて、プラスチックの小さなお皿の中で受精するのを待ちます。たいてい、採卵した日の夕方ごろにスタートして、翌朝に受精したことを確認します。
顕微授精は、運動精子数が極めて少ない場合や、体外受精でも受精しない受精障害のケースに、ガラスの針で1つの精子を卵子内に注入するICSIという方法で行われるのが一般的です。受精障害かどうかは、体外受精を行ってみないと分かりません。このため10個前後以上の卵子が採卵で得られた場合には、卵子を体外受精と顕微授精の2つのグループに分けて何れかを行うSplit inseminationという方法がしばしば選択されます。
ICSIには、通常は先端が尖ったガラス針を使用するのですが、当院ではピエゾ(piezo-)ICSIという方法を例に行っています。通常のICSIでは卵子の透明帯をガラス針が押し破るときに卵子全体が一時的に大きく変形しますが、ピエゾICSIでは高振幅の振動を与えて卵子を変形させずに精子を卵子内に注入することになります。
ピエゾICSIを行う前に、当院ではCaイオノフォアという方法で卵子を活性化させることもあります。精巣から得られた精子では原則これを行います。また、IMSIという光学顕微鏡の限界近くまで倍率を高めた超高倍率顕微鏡で精子を観察してICSIのための精子を選び出す装置も備えています。ICSIを行うときの卵子側での工夫としては、ICSIを行う時の卵子内のDNAが紡錘体という内部構造に存在することから、卵子に悪影響を与えずこれを観察できる紡錘体観察システムをICSIの装置に取り付けています。これにより、紡錘体を避けて安全にICSIを行うことができます。

ピエゾICSIでは通常ICSIのような卵子の一時的変形がほとんどない。当院で全てのICSIはこの方法で行っている。

超高倍率(1600倍)での精子顕微鏡写真(A)と通常(400倍)の顕微鏡下での同じ精子の写真(B)
紡錘体観察システム 矢印の部分にDNAが存在する紡錘体が見えてくる。

当院では、まだ世界的に草創期だった2008年から全症例・全受精卵にタイムラプス胚培養を実施しており、スタッフが習熟を重ねています。この装置は、コンピューター制御により全ての胚の写真を10分間隔で次々に撮影して、得られたコマ撮りの写真から動画を作製することにより、分割(細胞分裂)をはじめとした胚発育についての非常に多くの情報が得られるという画期的な装置です。この方法により、良好胚の選択がより正確となりました。とくに、これまで評価困難だった3日目や4日目の胚の優劣が付けやすくなってきました。また、一度装置にセットしたら、これまでのように1日に1回、培養器の外に出して観察する必要が無くなったので、外に出したために一定時間、温度・湿度・酸素や二酸化炭素の割合などが不安定な状態になることも回避できるようになりました。2018年からは新しいタイムラプスインキュベーターGeri®とGeriにより得られた画像情報を自動アルゴリズム胚評価Eeva®を導入し、医師によるベスト移植胚選択と患者情報提供が新しい段階に進みました。胚培養は、総合病院の建物の中でも特に厳しい基準の耐震性が求められる手術センターの建物内で、無停電の配線で行われています。

当院で使用しているタイムラプスインキュベーターGeri®と自動アルゴリズム胚評価装置Eeva®。Eevaは胚発育・胚発生の74項目の特性を自動分析して5段階評価する。当院では胚培養士の5段階評価と比較しながら、様々な重要ポイントでの胚発育・胚発生の状態も考慮に加えながら胚のランキングを行っている。

当院の胚凍結は、初期胚(分割期胚・桑実胚)に対してはプログラムフリーザー装置を用いた緩慢凍結法またはガラス化法で、胚盤胞に対してはガラス化法で行っています。
凍結胚は、総合病院の建物の中でも特に厳しい基準の耐震性が求められる手術センターの建物内で、液体窒素の備蓄も常時行いながら、取り違え防止のためのバーコードシステムを採用して安全に管理されています。

当院の胚移植は、高解像度の経腟エコー下で行い、胚が子宮のどの位置に移植されたかは3Dで立体的に確認します。また、すべての胚を常に凍結する全胚凍結を全症例に行うのではなく、子宮内膜がホルモン値とエコー所見の推移や胚発育のスピードで可能と判断し、妊娠成立時の卵巣過剰刺激症候群のリスクが低いと評価できれば新鮮胚移植を行うことを原則としています。もちろん、ファミリープラニングのための貯胚を行った胚、複数の胚が作製できた場合の新鮮胚移植不成功例、当院で症例が多い子宮筋腫手術を行う症例など計画的に凍結した胚に対しては凍結胚移植を行います。
凍結胚移植の方法は、当院では90%以上が自然周期(少量の排卵誘発剤もしくはレトロゾールなどのアロマターゼ阻害剤を使用する刺激周期も含まれる)で、我が国の人工周期(ホルモン補充周期)での凍結胚移植が圧倒的に多いのと真逆です。最近では、我が国全体でも自然周期が少しずつ増えてきたようですが、前置胎盤や巨大児のための難産など、人工周期が母児の周産期トラブル増加(加齢や子宮内膜症など他の要因もあります)に影響するというエビデンスが蓄積されてきたことを踏まえての配慮です。当院では、胚移植手術を実施した医師がそのまま妊婦健診の主治医なるなど、継続してケアできる体制をとっています。
周産期予後の重要なポイントとして、多胎防止も忘れてはなりません。2008年にタイムラプス胚培養を導入後、当院では完全単一胚移植を推進してきました。また、一卵性双胎の減少も目指しており、発生率は自然妊娠とほぼ同等で必ずタイムラプス画像を入念に検証して周産期リスク軽減を図っています。
その他、医師の技術向上や患者さんへの詳細な情報提供を目的として、3Dエコーを用いた胚移植(移植部位)や妊娠成立時の3Dエコーによる胎嚢部位確認を行っています。

移植胚が逆三角形の子宮内腔の中央奥やや右寄りに存在していることを示す3Dエコー画像。

その他

初診は夫婦(カップル)での受診が必須です。
施設としての対応能力を超えた患者数で長期間推移しており、初診を希望される方にはいったん夫婦のいずれか(問診表に記載をお願いする関係上、なるべく奥様)に初診予約を取りに来院していただくことになります。
また、初診予約時にお渡しする案内と総合生殖医療センターニュースレターを参考にご覧ください。

スタッフ

出身大学
名古屋大学
指導医
  • 日本産科婦人科学会産婦人科指導医
  • 日本生殖医学会生殖医療指導医
  • 臨床研修指導医
専門医
  • 日本産科婦人科学会産婦人科専門医
  • 日本生殖医学会生殖医療専門医
その他
  • 名古屋大学医学部臨床講師
  • 母体保護法指定医
  • 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
  • 日本不妊カウンセリング学会評議員
  • 日本IVF学会理事
  • 日本生殖工学会理事
  • 生殖バイオロジー東京シンポジウム世話人
  • 東海ARTカンファレンス代表世話人
  • 医学博士